舞台でもライブ・ミュージックハウスでも光と音は切っても切れない関係にある。光の演出によって音は美しくもなるし優しくも荒々しくもなる。そして時に妖しく語りかける。ホームオーディオで聴く音楽も煌々とした照明下より光量を絞った電球色の方が味わいがある。ホームシアターの場合、全暗環境が必要だが、オーディオ再生ではスピーカーを意識させない程度に照明を落とすと音楽に集中する環境を作ることが出来るし、そうすることでスピーカーとスピーカーの間に浮かぶ楽器やボーカルの姿…本来その位置から聴こえるはずのない音が次から次へと現れるのも不思議で愉しい部分だ。

しかしもう少し気軽にオーディオが楽しめたらいいのにと、世の男性諸君は思ったことはないだろうか…。リビングにスピーカーやアンプ、CDプレーヤーといった機器を設置すると、きまって女性陣から返ってくるのは、邪魔とか、鬱陶しいという言葉である。掃除しにくくなるからという理由もあるが、何もそこまで無碍にしなくてもいいのになぁ…。

だからと言って家に帰ってまでヘッドホンで音楽を聴くのも味気ない。深夜に爆音で楽しみたいのなら、そうした方法論も否定はしないが、音楽はやはりスピーカーから奏でたい。音楽は鼓膜で聴くものではなく、体で聴いてほしいからだ。コンパクトなシステムであってもスピーカーから出てくるサウンドは空間で合成されるため音の響きも自然なのである。

NECが昨年末にリリースした「CrossFeel」シリーズのLEDシーリングライトは、そんなニーズに応える新しい照明である。なんと本体内部に2.1チャンネルのスピーカーとデジタルアンプをビルトインして、照明器具でありながら音楽再生を可能にしてしまったのである。あるようでなかった新ジャンルの誕生だ。
そう言えばコーヒーショップや居酒屋では、たいがい天井にシーリングスピーカーが埋め込まれていて、ここから音楽が降り注ぐ。家庭でもこの流儀を応用できなくはないが、天井の喉が浅い場合は難しいし、後付けの場合配線にも難儀する。ところがこの「CrossFeel」なら、既設の照明器具と交換するだけで、新たなる音楽生活を実現することが出来るのである。
しかも本体に「Bluetooth」機能を内蔵しているので、ソース機器との配線も不要。ワイアレス伝送によってBluetooth搭載機器から信号を送ることで音楽が再生できるのである。なんと便利でなんと簡単。もうこれだけでも嬉しくなってしまうのに、サウンドのクォリティもこうした複合機器にしては驚くほどちゃんとしている。
照明器具にスピーカーを加えたと言うと、トランジスタラジオに毛の生えた程度のクォリティを想像するが、そうではなくかなりご立派。確かにスピーカー、アンプ、ソース機器を組み合わせたオーディオシステムと同等とは言わないが、浮いた感じがなく落ち着きのあるサウンドにみんな驚く。
実はこの「CrossFeel」、今ぼくの書斎で活躍している。昨年末に部屋を改装した折、それに合わせて照明器具も新しいものに替えようと物色していた時にこの製品に出会った。これまでは電球を使ったレトロなものだったが、エコロジーとエコノミーの観点から次はLED照明にしようと思っていた。幾度となく電気店や照明器具のショールームに足を運んだが、なかなかしっくりくる製品がない。選択の基準はシンプルでスマートなもの。元来デコラティブな製品が好みではないのでそうした点でも、「CrossFeel」はぴったりだったわけである。
だから最初からスピーカーの内蔵という付加機能に期待したわけではないが、予想を上回る性能に感心させられたというわけだ。このレベルなら充分に音楽を楽しめる。NECの開発陣に尋ねるとここに至るまでには随分と紆余曲折があったそうだが、その辺りのお話は次回に譲るとしよう。音楽をより身近に感じることのできる照明器具…「CrossFeel」はオーディオの楽しさを広げてくれる新しいオーディオ・ギアである。
〈第2回に続く〉